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生命の進化と腸内フローラ移植[第3回総会発表内容]

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2019.10.08

2019年9月23日、一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会の第3回総会「腸内細菌から人類への手紙」が開催されました。

今回は、当研究所 上席研究員 清水真の発表内容についてお伝えします。


下記より、動画をご覧いただけます。

生命の進化と腸内フローラ移植 シンバイオシス研究所 上席研究員 清水真

入場動画とともに登壇。

シンバイオシス

シンバイオシス研究所の所長である清水が
腸内細菌たちの秘めたる可能性について紹介

臨床検査技師という仕事と微生物の世界

我々臨床検査技師はものづくりの技術者であると考えております。
どのへんがものづくりなのか? と思われるかもしれません。
先生にご依頼いただいた血液、おしっこ、便のサンプルを精度良く測定することが我々の本業です。

例えば、25mプールで大さじ1杯の砂糖を溶かし、かき混ぜ、反対側で濃度を測る。そのような世界に我々はおります。

他にも、新しい項目の開発や、測定結果をもっと精度よく、早く返せないかを日夜研究し、実験と検証を繰り返しています。これが臨床検査技師という仕事です。
我々の基本理念は、下町ロケットの言葉を借りて「いずれ世の中が勝手に評価してくれる」ということを掲げています。

下町ロケットが大好きでして、他にも「我々は帝国重工です」という言葉も好きです。微生物の世界は重工業に近いと私は考えています。

微生物は、ブドウ糖を分解して酸やガスを産生します。そのエネルギー1つ1つは大したことなくても、体全体で1000兆の常在細菌がいるとなると、ものすごいエネルギーになります。
これは、まさにロケットなどの重工業に匹敵するのではないかというふうに考えています。

30年前、「驚異の小宇宙 人体」というNHK番組がありました。
それまでヒトの細胞は70兆と言われていたのが、1953年のDNA二重らせん構造の発見から37兆に是正され、私も非常に驚きました。

人体のすごさを例え話で言うなら、1杯の焼酎水割りをお酢に変えて体外に排出する代謝を人工的に実現しようと思うと、甲子園球場が7個分いります。

人体が小宇宙ならば、微生物はそこに散らばる星屑と言って良いでしょう。そこで、微生物の世界を探求する我々の計画を「スターダスト計画」と名付けました。
お察しのとおり、下町ロケットのパクリです。

腸内細菌の地図として。腸内細菌から人類への手紙を語る

ここで、腸内細菌から人類への手紙という書籍についてお話をします。

実は、既存の腸内フローラ検査は自分の便の状態がわかりにくいと思っていました。そこで我々シンバイオシスは、先生、患者さんのお役に立ちたいとの思いで、臨床的意義を中心にプロファイリングをしました。

我々の検査は現在テクノスルガ・ラボさんに外注していますが、おかげで一定の環境下で精度よくNGS(次世代型シーケンサー)検査ができています。我々のラボにもNGSが一台ありますが、現在は実験的にしているだけです。

プロファイリングに関しては、現在特許出願中です。

我々は臨床的意義に特化して、わかりやすい色付き棒グラフを作成しています。遺伝学的な分類だけではなく、菌たちの代謝産物は有用なものがたくさんあるので、放出する代謝産物によっても菌の分類をしています。それらのバランスによって菌力という独自の評価軸を算出しています。

生命の進化と俯瞰科学

俯瞰科学

先ほど申し上げたスターダスト計画は、俯瞰科学だと考えています。
俯瞰科学というのは簡単に言うと、いろんな専門分野を統合して、実験、検証していくことだとも言えます。

さて、ここで進化のお話をします。もともと進化の本質は巨大化であると私は考えています。

地球で初めて現れた生命である原核生物は、1ミクロン程度の大きさでした。
そして29億年前に真核生物が出現します。彼らの大きさは1ミリ程度。二次元では1000倍、体積にすると100万倍の大きさになったわけです。
さらに肺を獲得して陸上に上がると、動植物が次々と出てきます。彼らはさらに1000倍の大きさを有し、体積にするとさらに100万倍です。
つまり、生命は最終的に1兆倍の大きさにもなっているわけです。

最近、天文学的に宇宙の年齢がかなり正確に算出されました。その年齢は138億年と言われます。
一方で通常の進化では、ヒトの形になるのに150億年かかるはずであるという理論値が出ています。でも実際は46億年程度でヒトになっていますよね。このギャップはどこから来るのでしょう?

実は、突然変異の歴史がそのことを説明してくれます。
例えば、銀河の衝突で放射能が降り注ぎ、地球上の生命の大半が絶滅してしまったことが数回ありました。それから2回くらい、全球凍結もしています。地球は死の星であったと言ってもいいでしょう。

その過酷な環境を生き残った生物が特殊な進化を遂げます。それが突然変異として、加速度になったというわけです。
進化の過程で、ミトコンドリアなどを膜内に取り込んで、我々は巨大化しました。当時の地球は酸素濃度がかなり高く、猛毒である酸素から核を守る必要があったからです。こうして真核生物ができあがります。

通常の分化の仕方は茎進化と言って1つの生命が2つに分かれるのですが、それが加速する時期には冠進化といって、1つのものが一気にたくさんに分かれる進化になります。

ここで皆さんのご協力をお願いします。

進化の過程

蛇の嫌いな方、挙手をお願いします。

ありがとうございます。
3分の1くらいの方は好きということですね(笑)

実は我々の祖先が陸上に上がった頃はネズミくらいの大きさでした。当時、蛇は天敵だったのです。
その遺伝情報が間違いなく皆さんの遺伝子に記録されている、これが進化の面白いところです。

では手を挙げなかった方はどうなるのか? それが突然変異です(笑)

原核生物は遺伝情報を膜の中にとじ込めた単純な形をしています。一方で我々真核生物は、いろいろ取り込んで複雑な構造をしています。

真核生物としてのヒトの細胞と、原核生物としての細菌の細胞。ヒトと腸内細菌の共生は、超生命体と言えるのではないでしょうか。

腸内フローラ移植に最適解はあるのか

ちょっと真面目な話をします。
シンバイオシスは、日々いろいろな仮定に基づいてリサーチをしています。

今から皆さんにお話することで混乱があるといけませんので、学術的にエビデンスのあることをエビのマーク、我々の仮の説をカニのマークをつけて、ご説明したいと思います。

ドナー選択

ドナー

移植にどんなドナーを使っているのかは、皆さんが一番気になることかもしれません。
実は欧米では、すでに様々なプロトコルがあります。

近年になってスーパードナー探し、複数人ドナーの便のブレンドがやっと実験的に行われていますが、我々研究会は数年前からすでに行っています。

移植回数と頻度

シンバイオシス

CDIでは基本的に1回で治験が行われていますが、他にも潰瘍性大腸炎や自閉症など疾患によってプロトコルが変えられています。

我々は、回数と症状・疾患は関連がないのではないかと考えています。むしろ年齢と罹患年数がキーではないかと考えます。
具体的には17〜8歳、免疫の学校の胸腺の働きが終わると回数が増えるという実感があります。

嫌気環境処理にする必要があるのか?

シンバイオシス

嫌気性菌は空気に触れると死ぬという通説がありますが、それは大きな誤解です。彼らは芽胞や莢膜に覆われて、自分の身体を守る術を知っています。

参考URL:腸に住んでいる菌たち(嫌気性菌)は空気に触れると死ぬのか

新鮮便を使うか、凍結便を使うか

シンバイオシス

治験が始まった当初、国内では新鮮な便を使い、ドナーは二親等以内の安全な方というのがスタンダードでした。
新鮮な便を使うと、ドナー便の感受性試験(耐性菌がいるかどうか)に2日かかります。その他の血液、尿の検査をすると4日はかかります。

我々は世界最高水準の安全性を目標にしているので、マイナス80℃で低温保存をした便を用いています。

対象疾患

シンバイオシス

腸内フローラ移植としてエビデンスのあるもの、ただ腸内細菌との関連が指摘されているにとどまる疾患も多々あります。

ただ、私は外傷など一部の疾患を除いて、何らかの役に立てると思っています。

移植菌液の濃度

シンバイオシス

世界的に論文で出てくる菌液の濃度は、1:5程度が多いです。
濃ければ濃いほどいい、というような記述も見られます。

けれど我々は、この濃度は濃すぎると考えています。
腸に住み着く菌たちの様子を、椅子取りゲームにたとえてみましょう。

腸は避けがたく有機的な汚れが付いていますので、座れる椅子が5つしかないとします。そこに、ぜひ住み着いてほしい菌が10匹いるとします。
椅子が足らないと、強いもん順に座ることになり、濃度をむやみに濃くしてしまうとバランスの乱れになりえます。

だから、濃度は薄いほうがかえって良いのではないかと思います。我々の場合は1:45くらいに調整しています。
さらに我々の溶媒であるウルトラファインバブル水では、その界面活性作用を利用して物理的に「椅子」を増やす試みもしています。

代謝産物の利用

シンバイオシス

菌液を遠心分離して、代謝産物だけを移植したらいいんじゃないかという説もあります。

これに関して我々は、代謝産物はあくまで結果論であると考えます。それよりも代謝産物を出す微生物のバランスが大事ではないでしょうか。
代謝産物は腸に住む菌たちが我々宿主に支払う家賃のようなもので、住人不在なのに家賃をもらうわけにはいかないですよね。

投与方法

シンバイオシス

世界のプロトコルでは、経口カプセルや内視鏡などが主流になりつつあります。
しかし、どちらも肉体的、精神的な苦痛を伴う点で我々は採用していません。
我々は柔らかいゴムのカテーテルで移植を行います。

あとは菌液に乗って勝手に生着してくれるのを狙っています。

1,腸壁側に隣接する腸粘液層は、腸管腔で情報を吸収している外粘液層とは逆方向に流れている。
2,虫垂まで辿り着けば、どこに行くべきか道案内人がいる。
3,生物活性電位や架橋蛋白によって自分の住処を見つけられる。

(おまけ)抗生物質と腸洗浄

抗生物質を使って最初に菌たちを叩く方法が治験のプロトコルの一つにになっています。
効いた効いていないというエビデンスは大切だと思いますが、治療無効例に関しては、せっかくある程度あった多様性が失われたままの患者さんが生み出されることになり、我々としては心が痛んでいます。

また腸内洗浄をする方法に関しては、今の方法では菌のバランスは変わらないので、良いと思います。

ナノバブル水(ウルトラファインバブル水)を使った菌液

これから我々の取り組みをお話します。
先ほどの濃度のところで、1:45で菌液を作っていますとお話しました。
ウルトラファインバブル水は自分達のプラントを持ち研究会専用に作っています。

あくまで理論値ですが、1cc中に細かい泡が9億5000万個入っている計算で作っています。現在の科学技術では、希釈して粒度分布を測るしかないのですが、ベックマン・コールター社での計測では、他社製よりも倍以上の泡の計測となっています。
このウルトラファインバブル水の利用により、腸粘液層に菌を届けるのを助け、菌液の保存精度も向上させることができると考えられます。
また、我々の腸はマイナス200mvに酸化還元電位があるのですが、この値に近い値を実現することで、馴染みやすくしています。

シャンパンや炭酸水などの大きなバブルを1000分の1にすると、マイクロナノバブル(ファインバブル)になります。マイクロバブルは水中をゆっくり浮上して消えていきます。
ウルトラファインバブルは、さらに1000分の1の大きさで、産業でも広く利用されています。
ウルトラファインバブル水の特徴として、周辺がマイナスの電子で覆われています。

有機的な汚れなプラスに帯電しているので、ファインバブル水はそこに付着して、汚れを浮き上がらせることができます。これが先程のイス取りゲームの話につながるのですが、我々のウルトラファインバブルはもっと細かく、界面活性効果で汚れと腸壁の間に入り込むことができます。
そのために物理的に、菌の住処を増やしてやることができると考察しています。

我々の水は、回転せん断方式という方法で作っています。我々の理論では、回転させて泡を作ると、遠心力の差により泡はちぎられてどんどん小さくなっていくはずです。

細菌の話に戻ります。

我々の菌液では、マイナスに帯電する菌の引力に付かず離れずで引き寄せられるように、ウルトラファインバブルが浮遊しています。
これはあくまでイメージで、このようにびっしり覆われているわけではなく、泡が菌に付かず離れずの状態で壁を作っているイメージです。

これは、鞭毛、繊毛の働きを邪魔しないようにという狙いがあります。微生物は繊毛で遺伝情報の交換を瞬時に行うため、繊毛は非常に重要です。

このウルトラファインバブル水による便の処理によって、以下のことを期待しています。

・生着しやすく(架橋効果、引き込み、椅子を増やす)
・菌同士の接触を最低限に抑え、菌液を長持ちさせている
・酸化還元電位をコントロールしている

夢は動くドナーバンク!

私には実は、ドナーバンクを移動型にしたいという夢があります。
というのも、分析装置を同一の環境で使うことが重要で、精度は環境によって変わってしまうからです。

様々な分析装置を移動型で車に積み、ドナーや患者さんのいるところでただちに測る。
便の保存は液化窒素を想定しています。今はマイナス80℃ですが、より完全に便を保存するには液化窒素くらいの温度が理想的だと考えています。

ちなみに欧米では、移動型の医療車両は普通に存在し、今も稼働しています。

我々はMRIやウルトラファインバブル水プラントなどを車両に積み、和歌山医大や東大と共同研究してきました。

これは我々の所有する移動型のウルトラファインバブル水プラントですが、トラックのウイングを閉じて4時間経つとクラス5のクリーン度になります。

まだまだ解決すべき課題は多くありますが、常に患者様、臨床の現場におられる先生方のお役に立つための基礎研究でありたいと心がけております。

ご清聴ありがとうございました。

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