Loading...

腸内細菌(叢)の移植とは

腸内フローラのバランスが私たちの健康や病気の発症に密接に関わっていることが広く知られるようになってきました。
一方で、崩れてしまった腸内フローラのバランスを元の状態に戻したり、理想の状態に変えたりするのは簡単ではありません。
そこで、腸内フローラのバランスを整えるため、健常人の腸内細菌を移植するという治療法(Fecal Microbiota Transplantation=FMT、便移植、腸内フローラ移植)に期待が高まっています。

専門医たちの間では、「腸内フローラは『臓器』である」と言われています。損なわれた臓器を移植することで健康を取り戻してきた医学の進歩を見ると、腸内細菌を移植することはごく自然なことです。
他の臓器移植とは異なり、一般的におこなわれている腸内細菌(叢)の移植は、痛みや副作用が少なく、ドナーと患者さん双方にとって負担が軽く、これまでおこなわれてきた治療や予防とは全く違ったかたちで広く役立つことが期待されています。

腸内細菌(叢)の移植における対象疾患は、世界中で検証が進められています。
現時点で腸内細菌(叢)の移植を実施した疾患として論文発表されているのは、下記の通りです。

  • クロストリジオイデス・ディフィシル感染症
  • 潰瘍性大腸炎
  • クローン病
  • 過敏性腸症候群
  • メタボリック・シンドローム
  • 自閉スペクトラム症

また、腸内細菌との関連を示す疾患には下記のようなものがあります。

  • アトピー・アレルギー
  • がん
  • 1型糖尿病、2型糖尿病
  • 脂質異常症、肥満、高血圧
  • 精神疾患
  • 妊娠・出産、月経関連疾患
  • その他自己免疫疾患、生活習慣病

腸内フローラとは

腸内フローラとは、大腸や小腸を中心に生息する腸内細菌で構成される生態系です。正式名称は「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」です。

腸内には100兆個以上の個性豊かな腸内細菌が数百種類棲みついており、その構成は一人ひとり異なります。免疫力、精神の安定、食べたものの代謝、組織の再生、全身の臓器との通信など、腸内細菌の役割は多岐にわたります。私たちの身体や心の状態に合わせて存在比率や働きの強さ(バランス)を少しずつ変えながら、身体や心のダメージを最小限に留める働きと、恒常性の維持を担っています。

『すべての病気は腸から始まる』
とは、「医学の祖」ヒポクラテスの言葉ですが、腸内フローラバランスを整えることは、健康に生きていく上で欠かせない、大切な体のエコシステムを守ることにつながるのです。

2000年以降の遺伝子解析技術の進歩により、腸内フローラバランスの乱れが様々な疾患に関わっていることが明らかになってきました。食の欧米化や抗生物質の多用、行き過ぎた清潔主義、ストレスの多い生活などにより、現代人は腸内フローラバランスが乱れやすくなっています。腸からイメージしやすい便秘や下痢だけではなく、太りやすさやアレルギー疾患、糖尿病・腎疾患・自閉スペクトラム症なども腸内細菌と深い関わりがあると報告されています。

このような腸内フローラの働きに着目し、一定の基準をクリアした健常人の便から採取した腸内細菌を、注腸カテーテル、大腸内視鏡、十二指腸内視鏡、経口カプセル等の方法で患者さんの大腸内に投与する「腸内細菌(叢)の移植」の有効性と安全性が、世界中で研究されています。

NanoGAS®-FMT法とは

移植液の精製方法の工夫

NanoGAS®-FMT法の移植用菌液のもっとも特徴的な点は、便の溶解にNanoGAS®水を使用しているところです。ナノバブルは産業分野でも応用されている技術ですがNanoGAS®水は、通常のナノバブルよりも、気泡の数が圧倒的多く、長期安定・輸送可能な特徴を生かして、様々な効果を生み出すことができます。

このナノバブルの特性を利用することで、本来ならIgA(免疫グロブリンA)等の自己免疫機能に阻まれてうまく棲みつくことのできないとされていた他人由来の腸内細菌を、効果的に定着させることに成功しました。

NanoGAS®-FMT 7つの特徴

1.マイナスの帯電

ナノバブルはマイナスに帯電しているという性質を持ち、気泡同士が反発しあう為結合しません。その為、プラスに帯電している有機的な汚れを引き寄せ、吸着します。泡の大きさが非常に小さいため、汚れの下側に入り込み、汚れを浮き上がらせる架橋効果が期待できます。界面活性効果とも呼びます。
腸内細菌(叢)の移植では、腸壁の有機的な汚れの除去や、移植された腸内細菌の持つ鞭毛や繊毛を損なうことなく腸管の粘液層へ菌を誘導します。

2.菌液の品質維持期間を延長
Extended quality maintenance period of bacterial solution

NanoGAS®水の泡が緩衝材の役割をするため、菌の情報交換を阻害し、過剰な繁殖を防ぐ

Extended quality maintenance period of bacterial solution

一般的なFMTに使われる生理食塩水では、バイオフィルムを形成し死菌が堆積する

NanoGAS®水は泡が極めて小さい為、浮力が働きません。
その為、長期間泡が消えることなく液体中に存在します。
腸内細菌(叢)の移植では、移植までの間に菌同士の接触を防ぎ、菌液の状態が意図せぬバランスに歪んでしまわないよう、凍結に準ずる程度の保存性能を発揮すると期待されます。

3.ドナーの選択
ドナーの選定 ①血縁の有無

現在国内で治験中の腸内細菌(叢)の移植では、便から精製した菌液を移植することに対する心理的な抵抗感を少しでも和らげるため、多くの場合は二親等以内の親族から健康なドナーを見つける必要があります。一方、アメリカやイギリスでは、便バンクが設立され、健康な第三者の便を利用して腸内細菌(叢)の移植が行われています。

私たちは、多様性のある腸内細菌のバランスが重要であると考え、腸内細菌(叢)の移植には遺伝子学的にも生活環境も違う第三者のドナーを使用する方が効果は高いと考えています。その為、NanoGAS®-FMT法は、血液検査や便検査に加え、生活習慣の管理や厳しい問診を定期的にパスし続けているドナーのみを登録しているシンバイオシス社附属の【ドナーバンクJapanbiome(ジャパンバイオーム)】より便の提供を受けています。

シンバイオシス社附属の【ドナーバンクJapanbiome(ジャパンバイオーム)】

4.移植方法の工夫

移植回数と頻度
現在、アメリカで政府から公に腸内細菌(叢)の移植が認められているのは、CDI(クロストリジオイデス・ディフィシル感染症)のみです。CDIでは基本的に1回のみの移植で治験が行われています。
他にも潰瘍性大腸炎や自閉スペクトラム症など疾患によってプロトコルが変えられ、治験が行われています。
NanoGAS®-FMTでは、移植回数ではなく、年齢と罹患年数が結果に深く関わっていると考え、3~6回の移植をベースに、追加の移植が必要かどうかを主治医と患者さんに決めていただいています。

Transplantation Methods
5.便の保管方法

国内における治験では、事前に検査を行ったドナーの新鮮便を採取当日に使用するケースが多くみられます。NanoGAS®-FMT法では、検査がされておらず、安全性が担保されていない新鮮便は使いません。ドナーの健康状態及び糞便の安全性が充分に確認できて初めて、凍結した保存便を使用することにしています。しかも新鮮便を使う方法は、多くの方へ移植を届けられないという懸念がありました。

新鮮便と凍結便でFMTを実施しその成果を比較しても、有意差がなかったという報告もあります。安全性を第一優先し、凍結した保存便を使用しています。なお、添加剤による人体や菌への影響が定かではないことから、浣腸液としても使われる凍結保護剤(グリセロール)の添加はしておりません。

便の濃度

海外の論文に出てくる菌液の濃度は、1:5で原液と生理食塩水で稀釈するのが一般的ですが、この濃度は濃すぎる可能性があります。
NanoGAS®-FMTでは、1:45~1:10に調整した菌液を用いています。
患者さんの免疫力が、外からやってきた他人の腸内細菌とご自身の腸内細菌との違いを認識する際に、一時的に混乱してしまう現象を軽減するため、複数回の移植を短期間で計画的に行います。濃度勾配をつけて、効果的な定着を図るのも特徴の一つです。

Concentration of stool
6.投与方法

従来の方法では、経口カプセルや大腸内視鏡などが主流です。しかし、経口カプセルは粒が大きい上に、胃酸での損失を防ぐために胃酸抑制剤を使用します。さらに、大腸内視鏡では食事制限や下剤を免れない等、どちらも肉体的、精神的な苦痛を伴います。

NanoGAS®-FMT法は、柔らかいゴムのカテーテルによる移植で、菌を十分腸管に届けることができ、患者さんの肉体的・精神的な苦痛はほとんどありません。

Dosing Method
7.事前処置の有無

他の多くの治験や臨床応用では胃酸抑制剤や腸管洗浄剤の使用、移植前の食事制限などを伴います。抗生物質を一定期間服用して、あえて腸内フローラの多様性を一旦損なわせてから移植をするという方法が主流です。
NanoGAS®-FMT法では、こういった事前処置は一切ありません。

Pre-treatment or no pre-treatment

正しい知識を持ち、最適なスクリーニングを行い、優れた医療技術で治療に取り組む日本国内のクリニックの一覧はこちらからご確認頂くことが出来ます。

海外の腸内細菌(叢)の移植

Fecal Microbiota Transplantation National Registryの設立

アメリカの取り組み

現在、アメリカ最大の便バンク「OpenBiome」では、対象疾患をCDIに限り、国内の医療機関に安全なドナー便を提供しています。当該ウェブサイトによると、これまで62,000件以上に及ぶ菌液の提供を行っています。2017年に各研究機関と学会と共に腸内細菌(叢)の移植に関する指針を取りまとめていく国内指針運営委員会が開催されています。

オーストラリアの取り組み

オーストラリアでは2020年には先進医療扱いで腸内細菌(叢)の移植症例がすでに12,000件もあります。2021年以降腸内細菌(叢)の移植はバイオ医薬品扱いとなり法規制が変わっています。アメリカと比較しオーストラリアでは柔軟な対応で腸内細菌(叢)の移植の活用を促す方針が打ち出されています。

欧州の取り組み

欧州には未だ便バンクは存在していません。また、EU全体としてのルール作りを試みたものの統一見解をまとめることの難しさから、現在は、各国国内法に委ねる方針に変わっています。リサーチの症例報告は多いものの、実際の腸内細菌(叢)の移植症例としては少ないのが現状です。2017年に臨床診療における腸内細菌(叢)の移植に関する欧州コンセンサス会議が10カ国28人の専門家により開催されています。

[参考]
FMT Protocol
FMT国内指針運営委員会(アメリカ国立衛生研究所、アメリカ消化器病学会)
European consensus conference on faecal microbiota transplantation in clinical practice | Gut
欧州10カ国以上、28人の有識者会議で合意を得たFMTの臨床応用指針

腸内細菌(叢)の移植の有用性と国内外の経緯

腸内細菌(叢)の移植は、現在国内外の各機関で研究が行われ、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群で一定の効果が認められています。ただし日本においては未だ臨床研究法の対象になっていないため、最終的な評価は出ておらず全額自己負担診療となっています。
これまでの腸内フローラの有用性に関する国内外の経緯を下記にまとめています。新しい情報については当サイトのブログで適宜発信していく予定です。

腸内細菌(叢)の移植のもっとも古い起源は4世紀頃の中国で、下痢が止まらずに悩んでいた人のお尻に健康な人の便を入れたところ下痢が治ったことが最初の治療例だと言われています。それから時は下り、1958年の偽膜性腸炎に関する報告を皮切りに、欧米諸国では糞便微生物移植の研究が進んできました。

腸内細菌(叢)の移植が再び注目を浴びたのは、2013年のオランダの研究で、クロストリジオイデス・ディフィシル感染症(CDI)に対する治療効果がきっかけでした。CDIとは、外科手術等で抗生物質を大量に使用することにより、抗生物質に耐性を持ったクロストリジウム・ディフィシル菌のみが異常繁殖してしまい、本来は何千種類もいるはずの腸内細菌叢の多様性が失われ、最悪の場合は命に関わるとされる疾患です。アメリカでは毎年50万人以上がこの疾患に罹患し、毎年3万人が命を落としています。

その翌年の2014年にアメリカ食品医薬品局(FDA)は「CDIの多剤耐性時に、腸内細菌(叢)の移植が第一に選択すべき治療法である」と位置づけ、医学的にもその有効性が証明されつつあります。
一方で2019年には同FDAから、移植実施時に適切なスクリーニングを行なわず致死的な菌を移植し死者を出した事例について「腸内細菌(叢)の移植には深刻な感染リスクが潜んでいる可能性がある」と警告が出されました。

2021年現在、腸内細菌(叢)の移植は同FDAの執行裁量の方針の下に存在し、CDI治療に使用できるようになっています。しかしながら、確かな菌液の提供と説明責任を果たせる専門病院の選択なくしては、腸内細菌(叢)の移植という新しい治療法の効果を得ることは難しいと言えるでしょう。

日本における糞便微生物移植の研究は、2013年に各地の大学病院など8施設において、潰瘍性大腸炎とクローン病に特化した臨床治験が始まり(2016年に第一相が終了)炎症性腸疾患に対する効果が順次発表され始めているところです。

正しい知識を持ち、最適なスクリーニングを行い、優れた医療技術で治療に取り組む日本国内のクリニックの一覧はこちらからご確認頂くことが出来ます。

FMTの治験・臨床研究の動向(日本)

国立保健医療科学院・臨床研究情報ポータルサイト全28件、2022.09.09)

疾患 件数 研究機関
Ulcerative Colitis 9 順天堂大、藤田保健衛生大、慶応大、滋賀医大
rCDI 7 滋賀医大、大阪市大、
藤田保健衛生大、名古屋大
Crohn’s disease 4 藤田保健衛生大、滋賀医大、慶応大
同種造血幹細胞移植後 移殖片対宿主病 3 滋賀医大、がん、感染症センター
都立駒込病院
Immune Checkpoint
Inhibitor Therapy
9 藤田保健衛生大
その他 4 金沢大学

*2014-2021年
*終了 :5つのUC、1つのrCDI
*中止 :3つのrCDIの臨床研究
*症例数: 10,20,30,50,60, 30症例以下が多い

有害事象について
NanoGAS®-FMT法は、有害事象については、全て報告しています。
有害事象報告

安全性確保のための体制は、下記からご覧になれます。
シンバイオシス社附属の【ドナーバンク(Japanbiome)】

関連サイト

医療従事者向けサイト

TOPに戻る