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腸内環境と疾患

ペットの腸内フローラを整える方法とおすすめ商品

腸内環境と疾患

2025.06.20

ペットの腸内フローラとは?

現代のペットケアにおいて、「腸内フローラ(腸内細菌叢)」という言葉は、すでに多くの獣医師や飼い主の間で注目されています。

特に、犬や猫の健康維持や疾病予防のカギとして、腸内フローラのバランスが重要であることが科学的にも示され始めています。

腸内フローラとは、腸内に棲む細菌群のことで、善玉菌・悪玉菌・日和見菌などがバランスを保ちながら腸内環境を構成しています。

ペットの場合、このバランスは年齢・食生活・ストレス・薬剤使用・環境変化などによって大きく影響を受けます。

今回は、ペットの腸内フローラに関心を持つ獣医療関係者や飼い主の皆さまに向けて、腸内環境の基礎知識から最新の移植療法までを解説し、最後に注目の学術大会をご紹介します。

腸内フローラの基本概念

腸内フローラは、腸管の内壁に棲みつく多種多様な微生物の集合体です。

犬や猫では約1000種類以上の細菌が共存しており、これらが消化、免疫、ビタミン生成、炎症制御など多くの機能を担っています。

たとえば:

  • ビフィズス菌やラクトバチルス属は消化を助け、腸管バリア機能を保護
  • クロストリジウム属は短鎖脂肪酸を生成し腸の免疫を活性化
  • 悪玉菌(例:大腸菌の一部)は過剰に増えると下痢や慢性炎症を誘発

特に子犬や子猫の時期には、腸内フローラが未発達であり、母乳や周囲環境を通じて徐々に安定していきます。

この初期形成が、その後の体調や免疫に大きな影響を及ぼします。

腸内フローラがペットの健康に与える影響

腸内フローラのバランスが崩れると、ペットの健康全体にさまざまな悪影響が出ます。

具体例としては:

  • 慢性的な軟便や下痢:抗生物質使用後に悪玉菌が優勢になることで消化不良が起こる
  • 皮膚炎やかゆみ:腸内バランスの乱れが免疫過剰反応を引き起こす
  • 食欲低下と元気喪失:腸と脳が密接に関わる“腸‐脳相関”の関係からストレスが腸内に影響し、逆に腸の乱れが気分にも影響

さらに、最近の研究では、腸内フローラが神経伝達物質の生成にも関与し、犬や猫の情緒不安や興奮状態にも関係することが示唆されています。

腸内フローラのバランスを保つ重要性

健康な腸内フローラは、善玉菌・悪玉菌・日和見菌の理想的な比率によって維持されます。
これが崩れると免疫が過剰になったり低下したりし、さまざまな病気を引き起こします。

例えば:

  • 高齢犬の慢性便秘:加齢とともに腸内多様性が減少し、排便リズムが乱れる
  • アレルギー体質の猫:食事の変化や環境ストレスで腸内菌が偏る
  • 避妊手術後のホルモン変化による体重増加:腸内細菌のエネルギー代謝への影響が原因の一部とされる

また、ストレスと腸内環境の相互作用も重要です。
旅行や飼い主の不在といった日常の小さな変化がペットの腸内フローラを乱すことも少なくありません。

腸内フローラとペットの健康問題

腸内フローラの乱れが引き起こす疾患

腸内フローラの不均衡(ディスバイオーシス)は、多くの疾患リスクを高めます。

例として下記があります:

  • 炎症性腸疾患(IBD):腸内の有害菌増殖が慢性炎症を招く
  • 肥満:エネルギー抽出能の高い腸内細菌の過剰が影響
  • 肝臓疾患:腸管から肝臓への有害物質移行が肝機能低下を招く

こうした疾患は、単なる腸の問題にとどまらず、全身に波及するリスクがあるため、腸内環境のケアは予防医療として非常に重要です。

腸内フローラとアレルギーの関係

腸内環境と免疫のバランスは密接です。
善玉菌の働きによって過剰な免疫反応(=アレルギー)が抑制されます。

  • 春先のアトピー性皮膚炎:特定の乳酸菌摂取で症状が軽減した例
  • フードアレルギーの犬:除去食と善玉菌サプリの併用で下痢やかゆみが改善
  • 外耳炎を繰り返す猫:腸内環境の見直しにより症状が出にくくなった

このように、皮膚や耳のトラブルも腸から整えるという考え方が広がっています。

腸内フローラとペットのストレスの関係性

近年、ヒト医療では「腸‐脳相関」というキーワードが注目されており、心のストレスが腸内環境に影響を与えることが知られています。

実はこの現象は、犬や猫といったペットにも同様に見られることが分かってきました。

ペットは環境の変化や飼い主との関係性に非常に敏感であり、そのストレスが腸内フローラの乱れにつながるケースが多数報告されています。たとえば下記などがあります。

【ストレスが腸内フローラに悪影響を与えた具体例】

  1. 引っ越し直後に下痢を繰り返した猫:新しい住環境に慣れるまでの間、明らかな消化不良を起こし、フローラ検査では善玉菌の激減が見られた。
  2. 長時間の留守番が続いた犬:ストレス性の軟便が発生し、腸内で炎症を引き起こす菌の増殖が確認された。
  3. 多頭飼育環境の中でいじめられていた子猫:常に食欲が低下しており、便のにおいや形状の異常が続き、フローラの偏りが深刻だった。

こうした状況下では、腸内フローラの「多様性」と「善玉菌の割合」が共に低下し、日和見菌や悪玉菌が優位になります。

その結果、消化吸収が不安定になり、免疫過剰や炎症、さらには慢性的な胃腸トラブルを引き起こすリスクが高まります。

腸内フローラの多様性と免疫力

「多様性=健康」の法則は、人間だけではなく、ペットにもあてはまります。
多様な腸内菌が共存することで、外的ストレスへの耐性や免疫の柔軟性が高まります。

例:

  • 同じ餌だけを与えていた犬に比べ、いろいろなタンパク源を摂取していた犬の方がアレルギー発症率が低かった
  • 保護犬のストレス性下痢に対し、フローラ改善食で回復
  • 高齢猫の口内炎症状が乳酸菌群の投与で緩和

成長段階ごとの腸内フローラの変化にも注目することで、予防的ケアが可能になります。

腸内フローラを改善するための方法

食事の見直しと腸内フローラの関係

ペットの腸内環境に最も直接的に影響を与えるのが食事です。

具体的な改善例:

  • 高繊維フードの導入で便の状態が安定
  • 発酵食品(納豆菌や乳酸菌添加)の利用で消化吸収が向上
  • 動物性・植物性タンパク質のバランス調整で腸内の多様性が回復

食事管理は年齢ごとにも見直しが必要で、シニア期には特に消化吸収力の低下を考慮した設計が求められます。

サプリメントの活用法

手軽に腸内環境をサポートできるのが、サプリメントの利点です。

成功事例:

  • ビフィズス菌サプリで便秘傾向の老犬が改善
  • 下痢体質の子猫に酪酸菌を導入し正常化
  • 食事を変えられないペットにサプリを補完利用

効果のあるサプリは、獣医師との相談の上でライフステージや症状に応じて選定することが大切です。

腸内フローラ検査の重要性

近年、NGS(次世代シーケンシング)を用いた腸内フローラ解析により、菌の種類や割合を詳細に知ることが可能になりました。

活用事例:

  • 慢性消化器疾患の犬で特定菌の欠損を確認し、適切な介入
  • 皮膚症状のある猫で腸内菌の偏りを特定し、アプローチを変更
  • 若齢犬の成長不良に対し、プロバイオティクスを個別処方

科学的データに基づくケアが、より安全で効果的な施術につながっています。

改善がもたらすストレス軽減効果

腸内環境を整えることは、ペットの情緒安定やストレス軽減にも寄与するという報告が近年増加しています。

腸内フローラが整うことで、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの生成が促され、精神的な安定がもたらされるからです。

【腸内フローラ改善によるポジティブな変化の例】

  1. 分離不安のあったシーズー犬:プロバイオティクスを継続的に投与することで、留守番中の鳴き声と嘔吐の頻度が激減。
  2. 車酔いしやすかった猫:善玉菌主体のサプリメントを数週間与えたことで、移動時の嘔吐・不安行動が改善。
  3. ペットホテル利用後に食欲が落ちていたチワワ:腸内フローラ移植(NanoGAS®︎-FMT)を受けたことで、食欲と排便が正常化し、元の落ち着きを取り戻した。

このように、ストレスと腸内環境は「双方向的」に関係しており、腸を整えることがストレス軽減、ひいては全身の健康向上につながると考えられています。

日常のケアとして、環境の安定化に加えて、腸内フローラを意識したサポートを行うことは、これからのペットライフにおいて欠かせない視点となるでしょう。

腸内フローラに関連する商品とサービス

腸内フローラ測定キットの選び方

現在市販されているペット用腸内フローラ測定キットは、手軽に郵送検査が可能で、数日後に結果が届くものが多いです。

選ぶポイント:

  • NGS技術による高精度分析
  • レポートに食事・サプリのアドバイスが含まれているか
  • 継続利用で変化が追えるか

信頼性のあるメーカーと、獣医師の解釈サポートがセットになっている商品が安心です。

おすすめのペット用サプリメント

近年注目されている成分:

  • 乳酸菌+酪酸菌の複合サプリ
  • 水溶性食物繊維(イヌリンなど)
  • プレバイオティクス成分含有

獣医師監修の商品や、学術データに基づいた配合設計のサプリを選ぶと、より高い効果が期待できます。

腸内フローラ改善に役立つ腸内フローラ移植

ここまで紹介してきた食事改善、サプリメント、検査による可視化は、多くのペットにとって日常的なケアの柱となります。

しかし、それらを実施してもなお症状の改善が見られない、もしくは再発を繰り返すケースにおいては、腸内フローラ移植(FMT)が次のステップとして考慮されるべき選択肢です。

たとえば:

  • 慢性的な下痢や軟便が長期にわたり続いている場合
  • 抗生物質やステロイドの長期投与歴があり、腸内環境が著しく乱れていると推察される場合
  • 食物アレルギー・アトピーなどが多様な治療にも反応しないケース

こうした重度もしくは難治性のケースでは、腸内細菌の全体構造をリセット・再構築するという観点から、FMTは非常に有効なアプローチとなります。

兵庫みなと動物病院で実施している水素ナノバブル水を用いた新しいFMT手法(NanoGAS®︎-FMT)は、従来の方法と異なり、絶食や麻酔の必要がなく、動物への負担が少ない施術方法です。

実際に、食欲不振、慢性下痢、皮膚疾患などで効果が確認されています。

このような最新の治療選択肢に関する症例報告や実践例は、2025年9月に開催される「腸内フローラ移植臨床研究会 第9回学術大会」にて、豊福 祥生先生より講演される予定です。

ペットと腸内フローラ移植の最前線に立ち、最新のエビデンスと治療戦略を直接知ることができるこの講演は、医療従事者・研究者の皆さまにとって大変有益な機会となるはずです。

なお、2025年6月末までのお申し込みで早割適用が可能です。「ペットの腸内フローラを整える方法」にご関心のある方は、ぜひこの機会にご参加ください。

豊福 祥生先生の基調講演を直接聞けるチャンス!

最新のFMT(腸内フローラ移植)に関する発表が集結する腸内フローラ移植臨床研究会 第9回学術大会

医師・研究者の方はもちろん、腸内環境に関心のある一般の方もご参加いただけます。
会場参加以外にもオンライン参加も可能で、学会終了後は懇親会も開催します。

ペットの腸と健康の関係を深く学びたい方、自分や家族の健康維持に役立つ知識を得たい方にとって、これ以上ない最新の学びの機会です。ぜひお申し込みください。

豊福 祥生先生の講演内容の詳細はこちら
豊福 祥生先生の講演を聞く・学術大会のお申し込みはこちら 
(定員に達し次第締切となりますので、お早めにお申し込みください)

参考文献

  1. Balouei F, de Rivera C, Paradis A, et al. Gut microbiota variation in aging dogs with osteoarthritis. Animals (Basel). 2025;15(11):1619. doi:10.3390/ani15111619 
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監修者:農学博士 嶋秀明(シンバイオシス株式会社)

公開日:2025年6月20日

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