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症例別FMT自閉スペクトラム症(ASD)

移植体験インタビュー「一切関心のなかったレゴのようなおもちゃを積んで遊ぶようになったんです」

自閉スペクトラム症(ASD)

2024.08.23

重度の知的障がいを伴う自閉スペクトラム症に悩まされてきたI様とご家族。
言語による意思疎通が難しく、強いこだわりや敏感な肌のために、日常生活で多くの困難に直面し、薬の服用や遊びの場面でも一般的な方法が通用せず、対応に悩まされてきたとのことです。

そんなI様のご家族に、腸内フローラ移植前のこと、移植後に起こった変化について伺いました。

【プロフィール】
I 様
疾患名:知的障害をともなう自閉スぺクトラム症
移植期間:2021年6月14日~2021年9月6日
移植コース:移植6回
主治医:こいでクリニック
移植担当主治医:医療法人仁善会 田中クリニック
移植後の診断:症状の改善


Q1.腸内フローラ移植を受ける前は、どんな症状でお悩みでしたか?

20代後半になる私の子どもは、重度の知的障がいを伴う自閉スペクトラム症です。

話すこともできませんし、言語以外のコミュニケーションを理解する力も乏しいので、意思疎通が難しいです。意味の理解や解釈、感覚も異なるようです。肌も敏感で、タグが当たるのも、絆創膏一つ貼るにも嫌がって剥がしてしまいます。

こだわりも強くて、何かに執着して興奮状態になると、手がつけられません。薬を飲ませようにも、飲み薬も普通に飲み込めない。どうにか飲ませても効果が感じられない、そんな状態でした。

玩具や子供が喜ぶようなキャラクターにはほとんど興味がなく、もっぱら感覚的なもので遊んでいました。こだわりで紙を引きちぎったり、チリ紙を丸めて唾をつけて投げたり、一般的には遊びといえない行動もとっていました。とにかく紙類は全て破ってしまいますし、何かを食いちぎる動作も多くみられました。

Q2.「移植を受けよう」と思った決め手はどのようなものでしたか?

直接のきっかけは、主治医が食事療法や栄養療法に熱心だったことです。これらの延長で、腸内フローラの大切さを聞き、腸内フローラ移植が効果的だと勧めていただいていました。

腸内フローラ移植自体は、ずっと前にテレビ番組を見て知っていました。ディフィシル菌による感染症が改善したといった内容で、自閉スペクトラム症に対してもこうした治療アプローチは出てくるだろうなと当時からうっすら考えていましたし、脳腸相関(重要な器官である脳と腸は、お互いに影響しあうという考え方)も一般に知られていました。

インターネットで調べたかぎりでは、アメリカで移植を受けて1年で成果が出たとか、そういう話もあります。栄養療法と並行すると効果が期待できること、そんな腸内フローラ移植が大阪で受けられることを知って、決断しました。

「肌が敏感なので、浣腸なんかしたら嫌がって暴れるかな」と思ったのですが、全身麻酔をしている間に移植できると説明を受け、注射や採血は大丈夫なので、毎回静脈麻酔で移植をしていました。

「人間は自然の一部である」というレイチェル・カーソンの言葉がありますが、その通りだと思います。体内にも生態系があり、人間は微生物と共生しているとの理解がありました。

腸内フローラの詳細は分かりませんが、脳腸相関は事実としてあるようですし、腸内フローラの多様性の欠如が自閉スペクトラム症の症状に表れているのではないかと推察しています。

Q3. 移植を受けてから、体にどんな変化を感じましたか?

成人しているからか、はじめはほとんど変わりませんでした。ただ、腸内フローラのバランスはずいぶん変化していると、移植を担当してくれた田中先生はおっしゃっていました。症状の改善とまではいかなくても、変化はしているんだなと思って見ていたら、3回目の移植後、およそ半年後くらいに、じわじわ変化が表れてきたんです。

親は何とかいいところを探そうとするので、主観は入ります。見る人によっては、違う判断になるかもしれませんが、それまで一切関心のなかったレゴのようなおもちゃを積んで遊ぶようになったんです。それが一つの驚きでしたね。精神的にも落ち着いたように思います。にこやかに機嫌よく過ごすことが増えました。こだわりは依然としてありますが、極端なパニック状態になる頻度は減っています。

Q4. 移植中・移植後に取り組んだことはありますか?

田中先生から、移植した菌が腸に定着するよう、移植後も食事療法・栄養療法は継続したほうがいいとアドバイスをもらいました。

体にとって重要なタンパク質を補うプロテイン、ビタミンB群は毎日摂るようにしています。あと亜鉛などのミネラル、鉄分は時々勧められた時に摂っています。最近では青汁などをよく飲んでいます。野菜と発酵食品は、意識的に多めに摂るようにして、お米は五分づきにするなど、できるだけ精製されていないものを購入しています。こうするうちに、食事は改善され、好き嫌いも少なくなりました。ほとんど食べなかった肉類や魚介類をはじめ、何でも食べられるようになったんですよ。

週末に自然農法の畑で子どもと野菜づくりをしていて、野菜は自分たちがつくったものと、直売所でもたっぷり買って食べています。

腸内環境は土づくりと似ている、といった内容を含む畑の本を読んだことがあります。人間は自然の一部だから、人間も自然と同じ仕組みを体内に持っているのかもしれませんね。畑は外の自然、腸内フローラは体内の自然、そういう感覚があります。ですから、腸内フローラを整えて、自然のなかで過ごすようにしたら、子どもにとってよい影響があるかなというふうに考えています。

Q5.最後に

移植も食事療法も、自分自身が主体的に取り組んでいなければ続かないでしょう。「先生に言われたから」ではなく、自分で納得のいくまで情報を集めて、考えて、生き方の一つとして移植を選ぶとよいのではないでしょうか。

個人的な要望を申しますと、6回の移植が終わった後、どうすればいいのか教えてほしいなとは感じています。要は、「どのくらいまで移植を続けたらよいのか」が知りたい。ワンクール終わって、改善の余地がまだあって続けるべきなのか、それともいったん一区切りとするのか。具体的にどういうバランスに近づいていたらよいのか。子どものためにできることはしてあげたい思いはありますので、そういったことも教えてもらいたいですね。

研究会事務局とのコミュニケーションはインターネットが中心だったので、対面で相談する時間があれば、もっといいなと思っていました。自閉スペクトラム症の症状や変化は、文字表現だけでは分からないことも多いので。

いろいろ申しましたが、腸内フローラの大切さに気付き、健康な菌との共生を進めるために行動なさっている研究会には、心から感謝しています。自閉スペクトラム症に対するアプローチとして、腸内フローラ移植や食事療法は間違っていないと考えるからです。ただ実際には、障害者医療が適応される場合なら負担額は上限500円です。この感覚に慣れていると、移植にかかる費用は自費負担なので大変だと感じます。現状では移植を受けられる人も限られているので、すそ野を広げる意味でも研究を進め、学術大会や勉強会、患者さんたちの交流の場を通して、よりたくさんの方に情報を届けてもらいたいと思います。

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