自閉スペクトラム症のK様。
移植前は、自分のこだわりや日々のルーティーンが崩れると、激しく泣きわめく等、火のような癇癪を起こしていたそうです。
そんなK様のご家族に、腸内フローラ移植前のこと、移植後に起こった変化について伺いました。
【プロフィール】
6歳 男児
疾患名:自閉スペクトラム症
移植期間:2022年2月7日~2月18日
移植コース:移植3回
移植担当主治医:ルークス芦屋クリニック
移植後の診断:症状の改善
Q1.腸内フローラ移植を受ける前は、どんな症状でお悩みでしたか?
自分のこだわりや日々のルーティーンが崩れると、火のような癇癪を起こしていました。こだわり・ルーティーンとは、例えば、寝室へどのおもちゃを持っていくか、電気を消す順番、所定の場所にタッチするといった、息子のなかで決まっている動作を指しています。 それが一つでも、崩れると激しく泣きわめいたり、頭を床に何度も打ちつけたりするので、本人も、見守っている私たちも寝室へ行けない。深夜1~3時まで眠れず、体がつらい日もありました。
対応に困ったのは、ルーティーンがいつのまにか増えていく点です。息子の様子を見ていて、「こだわりになりそうだ」と思える動作は、実際にそうなってしまう前に遠ざけるようにしていましたが、なかなかうまくいかないのが実状でした。
癇癪以外で気になっていたのは、他人に対する興味が薄い点です。定型発達の子どもの場合、親が発語や手遊びを促すと、その動作をマネします。ところが息子は、私たちに興味を示さない。自分の興味があることしかやらないのです。通っている療育園でも、1人でぽつんと自分の世界に入り込んで遊んでいるような子どもでした。
Q2.「移植を受けよう」と思った決め手について教えてください。
海外の論文と国内の体験談が直接の決め手です。
腸内フローラ移植自体を知ったのは、移植を受ける1年ほど前でした。インターネットで自閉スペクトラム症と腸内環境との相関関係について知ったのをきっかけに、腸内フローラ移植に関する海外の論文や、国内での移植事例を調べるようになりました。腸内フローラ移植臨床研究会の存在と、研究会が開催している学術大会について知ったのもこの頃です。学術大会に参加して先生にも質問し、腸内フローラ移植を学んでいきました。
会話をした先生のうち、実際に訪ねたのが城谷先生のルークス芦屋クリニックです。移植を決意するもう一押しが欲しくてうかがいましたが、そこで新たに「食事の改善やサプリメントを用いた栄養療法で腸内環境を整えて、結果的に自閉スペクトラム症の症状を和らげていくのがあるべき姿」といった栄養療法のお話しも伺いました。栄養療法にもチャレンジして、最終的には城谷先生に息子への腸内フローラ移植をお願いしたのです。
Q3.移植を受けてから、体にどんな変化を感じましたか?
1回目の移植が終わったあとから、息子の雰囲気が変わったと感じました。普段は、張りつめたような緊張感があって、コンビニへのお出かけ一つとっても、叫びながら走り回ってすごい騒ぎになります。それが、移植後は大人しくお買い物ができる様になりました。
癇癪が圧倒的に減った点に加え、ルーティーンの拡大がなくなってきた点にも驚いています。息子が知らないお客さんが来て長時間滞在するといったイレギュラーはさすがにストレスが多いようで、癇癪を起こすこともありますが、日常生活での癇癪は減り、だいたい決まった時間に食事をして眠りにつく生活リズムが整ってきています。私たち親側の負担も減って、息子も私たちも、生活が楽になりました。
以前は全く受け付けてくれなかった発語・手遊びにも、応えてくれるようになっています。喉が渇いたら「ジュースをちょうだい」と言ってくれたり、転んだ時にはすり傷を示して「痛い」と訴えたり。泣きわめくことでしか自分の要求を伝えられなかった息子が、つたないながらも「伝える声」を持つようになったのは、大きな変化だと思っています。
↑自閉スペクトラム症のお子さんが書いた絵です(ご家族より写真をいただきました)
Q4.移植中・移植後に取り組んだことはありますか?
栄養療法ですね。息子に不足している栄養素を城谷先生に教えてもらい、それを補うサプリメントを粉にして息子の食べ物・飲み物にまぜています。腸内細菌が根菜類から摂取できる良質の糖分を好むと聞いて、根菜多めのメニューを組んでもいます。
同じ糖分でも、砂糖や、ほかには小麦粉はなるべく控えた方がいいとアドバイスをもらっていますが、これは苦戦中です。息子は砂糖や小麦粉を使った食品は大好きなので、ぱくぱく食べてしまって。やりきれていない部分もありますが、厳しく制限しすぎてもストレスになってしまうでしょうから、気づかれないレベルでうまくやっていくのが大切かなと思っています。
もう一つ、継続を意識しているのは手を繋いで歩くことです。自閉スペクトラム症の子どもにとって、相手とペースを合わせて歩くのは難しい。はじめの頃は、すぐに手を放して走っていってしまいました。移植後は手を繋いで歩き続けられるようになっており、総じて人間的なふるまいが増えてきていると感じています。
最後に
腸内フローラ移植は、今後どんどん注目される医療だと思っています。ただ、伝え方によっては、「自閉スペクトラム症が治る魔法のような治療」だと受け取ってしまう親御さんがいるかもしれないので、その点は注意が必要でしょう。
定型発達の子どもが年齢に応じて発語が増えたり、行動のバリエーションが広がったりしていくのは、成長の課程で積み上げた経験値があるからです。移植は経験値まで授けてはくれませんから、魔法のような変化は望めない。移植を検討する際は、簡単に「やる、やめる」を決めるのではなく、期待できるメリットや注意点などをとことん先生に相談していただくのがよいと思います。
一方で、治療を提供する先生側にも工夫してほしいポイントがいくつかあります。移植に至るまでの説明は十分していただき納得して臨みましたが、菌液の選定は先生と研究会にお任せしていました。その菌液が、「どういう基準で選ばれているか」を患者側は知りません。改善が出にくいケースもあると聞きますので、菌液の選定基準はもちろん、どういう菌液を入れるかどうかを先生・研究会側にまじって一緒に検討できると、納得感につながっていくのではと思います。
息子は移植後、「経験の積み重ね」ができるようになって、日々の楽しみにもつながっているようです。これからも息子にとって大切な出来事がたくさん起こってくるはずですから、チャレンジの機会も増えていくでしょう。息子の将来が不安でしかなかった移植前と比べ、いまはその未来を前向きにとらえられています。子どものための移植でしたが、私たち親の生活のためにも、検討していただくのもよいのではと思います。