腸内フローラ移植は自閉スペクトラム症にどのような影響をもたらすか。
たまたま腸内フローラ移植を知ったY君の保護者様は、国内外の腸内フローラ移植実績を調べ、吟味し、移植を決意したといいます。移植前と移植後、Y君に見られる変化についてうかがいました。
【プロフィール】
7歳 男児
Y君
疾患名:自閉スペクトラム症
移植回数:
2020年4月11日~5月16日 6回移植コース
2020年9月19日~10月3日 追加移植3回
移植担当主治医:喜多村クリニック
(喜多村クリニックの記事一覧はこちら)
移植後の診断:症状の軽度改善
Q1.腸内フローラ移植を受ける前は、どんな症状でお悩みでしたか?
赤ん坊の頃の息子は文字通り、火がついたように泣く子どもでした。どうすれば泣き止んでくれるか試行錯誤でしたが、泣くのはエネルギーを使いますし、息子本人がつらかっただろうと思います。
幼児期になった息子には「視線のあいにくさ」を感じていました。
他のお子さんと比べることがなかったので当時は気づいていませんでしたが、言葉の遅さ、激しいかんしゃく、同じ動作を延々とくり返す常同行動もありました。
常同行動は、カギの開け閉め、水を流し続ける、あとは使わなくなった携帯電話を平らなところでクルクル回す、といったことをよくしていましたね。
かんしゃくは、例えばテレビを見せなかった時などに起こしやすかったです。なだめる私たちにも負担はありましたが、やはり感情をコントロールできない・暴れるのを止められない息子こそ、つらかったのではないかと思っています。
息子が自閉スペクトラム症で重度判定を受け、根本治療が難しいと知ってからは、少しでも改善すれば……と期待をこめて、認知行動療法を実践していました。
Q2.「移植を受けよう」と思った決め手はどのようなものでしたか?
「一番しんどいのは息子。そのしんどさが少しでもやわらぐ選択肢があるなら、移植を受けてみよう」。
さまざまな情報に当たったのち、この結論にたどりつきました。
もちろん、すぐに答えを出せたわけではありません。NHKスペシャルで腸内フローラの大切さを知ってから決心するまで、本当にたくさんの情報に目を通しました。
腸内フローラ移植と自閉スペクトラム症との関連を知ったのは、NHKスペシャルの後、2019年の暮れ頃に潰瘍性大腸炎患者の回復を追った番組を見た時です。「海外では自閉症にも効果があると報告されている」というナレーションに驚き、そこから腸内フローラ移植について調べ始めました。
特定非営利活動法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパンの報告など、探すといろいろな情報が見つかりました。
中でも参考になったのが、アメリカ・アリゾナ州立大学の調査結果です。同大学で自閉スペクトラム症の児童18人に腸内細菌移植をくみあわせた治療を行ったところ、治療前は83%の児童に重度症状があったのに、2年後はその割合が17%になっていた、というのです。
こうして腸内フローラ移植が自閉スペクトラム症にもたらすプラスの影響はほぼ確信できたものの、テレビで紹介されていた腸内フローラ移植は臨床研究の段階。
一般で受ける方法はないものかとさらに調べて見つけたのが、腸内フローラ移植臨床研究会です。自閉スペクトラム症の患者さんへの移植実績もあると知り、隅から隅までホームページを読みました。
研究会のページにも「年齢が若いほどよい結果が出やすい傾向にある」という記事を見つけ、早いほうがいいという感情と、かかる金額を考えると慎重に判断しなければ、という思いとの間で迷い、何度も何度も集めた情報を読み返しました。
そうして導きだしたのが、「一番しんどいのは息子。そのしんどさが少しでもやわらぐ選択肢があるなら、受けてみよう」という結論です。
Q3. 移植を受けてから、体にどんな変化を感じましたか?
2020年4月から6回移植コースを受け、その後のフローラバランスチェックでは、炎症因子に変化が見られず、追加で3回の移植を受けました。
最後の移植から約1年後、激しかったかんしゃくは起こらなくなっています。長く座っていられるようになったり、こだわりが減ったりと、よい方向へ変化が出ています。
言葉については、会話は難しいもののしゃべる単語が増え、理解力も上がりました。認知行動療法の一環で写真を見せて「誰が、今何をしているかな?」と聞くと、つっかえながらも答えられるようになっています。
常同行動は残っていて、洋服の前部分の裾を持ち上げたりおろしたりして中に入れたオモチャをひっくり返す、同じ数字を書く、といった遊びをよくしています。料理の写真を私たちに見せて、「食べるマネをして」とせがんだりもします。
最後に
私たちの望みは、息子が将来的に就職して、自分一人で生活できるようになること。
そのためには、定期的なフローラバランスチェックと、それを見ての追加移植が必要かどうかの判断、そしてよくなった腸内環境を維持する生活習慣が大切だと考えています。
今、息子には海藻やもずく、乳酸菌発酵エキスなどを工夫して食べさせていますが、これからも試行錯誤は続けていかなければ、と思っています。
▼フローラバランス検査結果
<症状の改善には個人差があります>