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新型コロナウイルスの軽症化には腸内細菌叢の移植が安全で有効?

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2021.09.09

FMTを受けたあと、新型コロナウイルス感染症が早期に回復

ポーランドのワルシャワ医科大学、Jarosław Biliński氏たちの研究チームによる報告です。

(ケースレポート本文)
Rapid resolution of COVID-19 after faecal microbiota transplantation | Gut

(この論文を踏まえて書かれた英語記事)
Could a Stool Transplant Help Recovery in COVID-19 Patients? | Technology Networks

新型コロナウイルスにかかると腸内フローラの構成が変わることが報告されていますが[1][2]、腸内フローラを改善するための腸内細菌叢の移植が役にたつという点がポイントです。

ちなみにレポートの中で出てくる「SARS-CoV2」と、新型コロナウイルス(COVID-19)にどう関連があるかというと、SARS-CoV2はウイルス名、COVID-19は病名です。

腸内フローラは免疫システムと深い関連があり、肺とも相互に関連しているとの報告があるので[3]、新型コロナウイルス感染症に腸内細菌叢の移植が有効なのではないかという推測になるようです。

今回は、新型コロナウイルス感染症の症状があるCDI患者さん二人に腸内細菌叢の移植をしたというケースレポートです。

ケース1:80歳男性、複数疾患を合併

【患者さんプロフィール】
・80歳男性
・CDI(クロストリジオイデス・ディフィシル感染症)の罹患歴あり
・その他、複数の疾患を合併している
・肺炎と敗血症で入院中

この方は抗生物質で肺炎の治療をしていましたが、CDIを再発してしまい、腸内細菌叢の移植をされました。

しかし、腸内細菌叢の移植の当日に熱が出て、炎症の指数であるCRPも上昇してしまいました。

検査したところ、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の陽性反応が出ていました。
そのため、抗ウイルス薬とconvalescent plasma (CP, 回復期患者血漿療法)を開始しました。
予期せぬことに(って書いてある)、FMTの2日後に熱が下がって、CRPの数値も下がったそうです。

「回復期患者血漿療法」とは、新型コロナウイルス感染症の治療に有効な可能性があると試されている方法です。ただ、効果はまだ限定的とのことです。(参考:回復期患者血漿

ケース2:19歳男性、潰瘍性大腸炎

【患者さんプロフィール】
・19歳男性
・潰瘍性大腸炎を患い、免疫抑制剤を使用中
・CDI再発のため入院

CDI治療の目的でバンコマイシンという抗生物質が投与され、症状は落ち着きました。
さらなるCDIを予防する目的で、大腸内視鏡経由で腸内細菌叢の移植を実施。

腸内細菌叢の移植から15時間後、彼は39度の発熱をし、CRPの数値が上昇しました。

検査をすると、彼にも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の陽性反応が出ていました。
その後、熱が下がりCRPの数値も落ち着いたとのことです。

患者とドナーの新型コロナウイルス感染状況

患者さんはどのタイミングで新型コロナウイルスに感染したのか。

ケース1の患者さん
・入院前の検査は陰性
・FMT直前の便検査では陰性
・FMTから7日後の便検査は陽性
・FMTから14日後の便検査は陽性
・FMTから30日後の便検査は陰性

ケース2の患者さん
・入院前の検査は陰性
・FMT直前の便検査では陰性
・FMTから7日後の便検査は陽性
・FMTから14日後の便検査は不明
・FMTから30日後の便検査は陰性

ドナーになった人は、便の提供時に二度の鼻に突っ込むタイプのコロナ検査と、提供した便についての便PCR検査で陰性が確認されています。

2つの事例から導かれること

筆者らは、
「腸内細菌叢の移植は新型コロナウイルスに感染している再発性CDI患者にとって、安全で有効な方法だ」と述べており、


さらに
「FMTをしたことで新型コロナウイルス感染症の臨床症状が軽く済んだのではないか」と推測しています。

今回の患者さん2名は、コロナが重症化しそうなタイプの方ですです。


「抗ウイルス薬は10日くらいしないと効き目が出ず、その他の彼らが受けていた治療はいずれも新型コロナウイルス感染症に有効と示されていないものだった」と。

さらに、便のPCR検査において通常の新型コロナウイルス感染症の場合は27〜47日間くらい陽性が出続けるんですが、この患者さんたちはそれよりも短い期間で陰性に転じました。

実はイタリアの研究チームも似たような経験をしていて[4]、今回の報告はそれをさらに支持するような結果になったということです。

今回の発見は、とてもとても興味深く、決して見逃されるべきではない報告だと思います。
ワクチンを打てばとりあえず安心であると製薬会社と政府主導でコロナ対策が進んでいますが、腸内細菌叢の移植のほうがより安全に効果が見込める可能性があります。

研究チームは、新型コロナウイルス感染症の重症化防止策のひとつに、腸内細菌叢の移植が標準的に追加されることも視野に入れて臨床試験を行うとのことです。

関連サイト

医療従事者向けサイト

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