当研究所の腸内細菌(叢)の移植は、基本的に複数回の移植を行います。
少ない人で3回、中には20回、最多で50回を超える移植を行っている患者さんもいます。
寛解後も、安心材料として移植を続けていただいている場合も多くあります。
病気の種類や状態、罹患歴に加え、年齢や生活習慣などによっても必要な回数が異なるため、回数には個人差があります。
他の臓器移植と違って、移植したら「はい、終わり」というわけにはいきません。
前回の記事で触れたとおり、人体の組織そのものの移植ではないためリスクは少ないと考えられる反面、腸内細菌たちが出してくれる有用な物質が身体の働きそのものを正しい方向へ戻してくれるまで、時間がかかるのです。
自分の腸内細菌を全部殺してしまい、新しい腸内細菌移植菌液を入れれば、早く効果が出ると思われるかもしれません。
もし「免疫」がなければ、その方が早いです。
これも前回の記事で言ったことですが、基本的には移植された菌は、自分の免疫(IgA抗体)の許可がないと腸管内に定着できません。
身体に新しい腸内フローラを覚えてもらうことはいいことばかりのようですが、実は定着せずにそのまま体外へ排出されることに比べると、リスクが上がります。
移植菌液の「覚えてもらいやすさ」が高いゆえに、起こりうること
例えば、自分の本棚に自分のアイデンティティが否定されるような本が並んでしまうと、落ち着かない気持ちになります。
今まで読んでいた本に戻りたいと思う、以前より同じ本ばっかり読むことになるかもしれない。
これが多様性を良しとする腸内フローラで起こると良くないです。この現象を、「リバウンド」と呼んでいます。
自分の腸内フローラが抵抗することがあります。
人間の持つ恒常性(ホメオスタシス)が、新しい腸内フローラを異物だと認識してしまう可能性があります。
(ホメオスタシスについては、こちらも参考にしてください:「腸内フローラ移植は、何歳で受けるのが一番いいのかを考える」)
新しく入ってきた腸内フローラバランスと、自分が持っている腸内フローラバランスが反発し合うと、
一時的に症状が悪化したように感じることもあります。
この「リバウンド」が起こりやすいのは、免疫がよく働いている方です。
つまり、免疫の学校である胸腺の教育が終わる17〜18歳くらいからおおよそ10年くらいは、免疫力は高い状態です。簡単に新しいフローラバランスに変わりません。
疾患別で言うと、免疫が過剰な状態にある「アトピー・アレルギー」「潰瘍性大腸炎」「クローン病」などの炎症性腸疾患もリバウンドが起こりやすいと言えます。
リバウンドをなるべく起こさない移植方法
リバウンドは起こらないほうがいいです、もちろん。
リバウンドは自分の免疫力が自分の身体を急激な変化から守ろうとしてくれています。
そこで当研究所は、「なるべくリバウンドなく、徐々に自分の身体に新しい腸内フローラバランスを覚えてもらう方法」を採用しています。
一言で言うと、「だんだん濃度を上げる」という話なんですが、
この
・2回目、3回目、それ以降の濃度をどれくらいにするか
・量をどれくらいにするか
・頻度をどれくらいにするか
の按配が難しい。
同じ病気でも人によって違い、主治医と一緒に経過を見ながら決めています。
リバウンド以外の注意点は、「悪い菌の定着」のリスク。
誤ってウイルスや感染症の原因になる細菌を定着させると大変です。
当研究所の使用するドナー便は、Japanbiomeによる管理運営を行っています。詳しい検査内容などもこちらから。
私たちは、少しでも患者さんの負担を軽減し、最大の効果が出せるように考えて研究をすすめていきます。移植をお受けになった/これから移植をお受けいただく皆さんも、移植前後の経過はできるだけ詳しく主治医と共有してください。