コアラの主食は毒である
主にオーストラリアに生息するコアラは、ユーカリの葉を食べて生きている。その葉は多くの動物にとって毒であり、私たちが食べるとお腹を壊してしまうし、もちろん栄養にもならない。
コアラの肝臓はユーカリの毒に強いが、栄養を引き出すための酵素を出す遺伝子はどこにも持っていない。
秘密は2メートルもある盲腸に棲む微生物(細菌)にある。
彼らはユーカリの葉の毒を解毒する成分を出しつつ、そこから栄養を引き出してくれるため、コアラたちはユーカリの葉で生きていくことができる。
資源が有限な地球に住む動物にとって、他の動物が食べられないものを栄養源にできるというのは、生き残りにかなり有利に働く。
コアラの赤ちゃんはお母さんのうんち?を食べる
コアラにとって生命線であるこの細菌たちを、生まれたばかりのコアラはまだ持ち合わせていない。
コアラの子どもも、ヒトと同じくかなり未熟な状態で生まれてくる。
生後すぐから母親のお腹の袋に入り母乳だけを飲んでいた子コアラは、生後8ヶ月頃からユーカリを食べ始める。
その数週間前、母コアラが「そろそろ母乳だけで育てる時期が終わったな」と判断すると、自分の盲腸で作った「パップ」と呼ばれる黄緑色のやわらかい物質を肛門から出して子コアラに与える。
これは母コアラが通常するうんちとは別もので、子コアラにユーカリの消化を助けてくれる細菌と消化途中のユーカリの葉を渡すことを目的として作られている特別製のうんちだ。
この素晴らしい天然の離乳食のおかげで、子コアラの腸には微生物と一緒に、微生物がそこで増えていくための食事も届けられることになる。
有益な細菌そのもの(プロバイオティクス)と、細菌のエサ(プレバイオティクス)が両方含まれている、シンバイオティクスの究極例だろう。
いろんな生きものたちが菌のリレーをしている
植物(のセルロースという成分、多くの哺乳類が分解できない)を栄養源とするために微生物の力を借りる方式は、コアラだけではなくウシやヒツジも採用している。
コアラの例はやや特殊ではあるけれど、他の哺乳類も同じように産まれてくる子どもに微生物のセットを渡している。
経膣出産やその後の授乳を通して、赤ちゃんは母親の膣、腸、皮膚などの微生物を獲得していく。
そのような「微生物の垂直伝播(菌のリレー)」は、出産行為に伴って結果として生じているだけなのだろうか?
哺乳類以外の生き物にも目を向けてみよう。
カメムシやツツジコブハムシは、産卵後の卵の表面に糞を塗りつける。卵から孵った子は、自動的に母親の微生物を受け取れる仕組みだ。
ゴキブリやカエルも同じようなことをする。
つまり、確認されているだけでもかなり多くの生物にとって、微生物は子孫にたまたま引き渡されるのではなく、積極的に伝えられているようなのだ。
この事実は、進化学的に考えると合点がいく。
地球にはじめて誕生した生命は今の原核生物(細菌や古細菌)に似ていると考えられているし、すべての動植物は体内外にいる微生物と共生することで今のかたちに進化してきた。
つまり、自分の遺伝子だけではなく自分の微生物をも含めて子どもに渡すことで、ほんとうの意味での生殖が完了するのかもしれない。
こういった菌リレーを先祖代々続けてきた動物たちには、私たちヒトももちろん含まれている。
今の人類に近い形になってからの何千世代、何万世代だけではなく、おそらく最初の最初から。
次に私たちヒトの出産と微生物の関係を紹介したいところだが、その前に妊娠期間中の腸内細菌に目を向けてみたい。
妊娠中に腸内細菌が母体にどのような変化を起こすのか、また妊娠中の生活習慣がどのように腸内細菌に影響を与えるのか。
本ブログ記事は、
シンバイオシス株式会社微生物事業部の研究員が
noteにて作成した記事を転記しております。
記事タイトル:動物たちの母子菌リレーから学ぶマイクロバイオームの垂直伝播
記事リンク:https://note.com/symbiosis17/n/n4301c7b3c7d8