自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)は、対人関係やコミュニケーションが苦手であったり、特定のものごとに強いこだわりを持つといった特徴をもつ発達障害のひとつです。
症状のあらわれ方は人それぞれで、知的発達や言語能力、感覚の過敏さなどにも大きな個人差があります。そのため、同じ「ASD」と診断されても、困りごとは一人ひとり異なります。
診断は主に、医師による行動観察や心理検査を通じて行われます。ASDの診断基準としては、DSM-5(米国精神医学会による診断基準)やICD-10/11(世界保健機関の国際疾病分類)などが用いられています。
近年では、知的障害をともなわないASD(いわゆる高機能自閉症)や、成人になって初めて気づくケースも増えています。ASDは「脳の発達の特性」として生まれつき存在すると考えられており、本人の努力や家庭環境だけで変わるものではありません。
そのため、支援の目的は「治すこと」ではなく、「本人が自分らしく生活できるようにサポートすること」にあります。
教育的・心理的支援のほか、近年では身体面、特に腸内環境との関係にも注目が集まっています。
自閉スペクトラム症(ASD)と腸内細菌叢の関係とは?
腸は「第二の脳」と呼ばれ、腸と脳は神経・ホルモン・免疫などを通じて密接につながっています。これを「脳腸相関」または「脳腸軸」と呼びます。
最近の研究では、このつながりの担い手が腸内に生息する腸内細菌叢(腸内フローラ)であることが分かり、より正確には「腸内細菌叢-腸管-脳軸」と表現されるようになりました。
ASDの方々の多くに、便秘や下痢といった消化器症状がみられることは以前から知られています。近年では、これらの消化器症状だけでなく、腸内細菌叢の多様性そのものが低い傾向にあることが報告されています。
腸内環境の乱れが神経伝達や免疫応答に影響し、それが行動や感情の変化に関与する可能性が指摘されています。
海外の研究では、腸内フローラ移植(FMT:Fecal Microbiota Transplantation)がASDの症状に一定の変化をもたらす可能性があることが報告されています。
たとえば、アリゾナ大学の研究では、ASDの患者18例を対象にFMTを実施し、約40%の被験者に行動面の改善傾向がみられたとされています。
また、中国・第三軍医大学の研究では、FMT後4週で約60%の被験者に改善傾向がみられたことが報告されています。
こうした研究はまだ探索的段階ですが、腸内環境の整備が行動や情緒の変化に寄与する可能性を示唆しています。NanoGAS®-FMTでも、腸内環境の再構築を通じて、こうした脳腸軸の働きにアプローチする検討が進められています。その特徴や臨床実績については、次の章で詳しく紹介します。
NanoGAS®-FMTによるASDの臨床実績とその展望
ASDに対するNanoGAS®-FMTの臨床的アプローチ
NanoGAS®-FMTは、腸内細菌の多様性を回復させることを目的とした「腸内フローラ移植法」です。
私たちはこの方法を、より自然なかたちで腸内環境を整える手法として発展させてきました。
国内では、一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会に所属する複数の医療機関が、ASDのお子さんを対象に臨床的な取り組みを行っています。
これまでの検討結果の蓄積から、NanoGAS®-FMT がASDの方に対して行動面・情緒面の変化をもたらす可能性が示唆されています。
また、ASDの方の「生活しやすさを高める」「家族とのやり取りがスムーズになる」といった変化が報告されています。
移植前後の変化を可視化する評価・検査
NanoGAS®-FMTによるASDの検討では、移植の前後で腸内フローラや行動の変化を客観的に可視化する取り組みを行っています。
たとえば、中学生以下のお子さんを対象に、移植前後で以下のような評価・検査を組み合わせて実施しています。
- SRS-2(社会的応答性評価尺度):対人行動やコミュニケーションの変化を確認
- GSRS(消化器症状評価尺度):胃腸の状態や排便の様子を評価
- PHQ-4(うつ病・不安症状の簡易評価尺度):気分の変化を把握
- SSP(感覚処理特性評価尺度):音や光などの刺激に対する反応を確認
- Gazefinder(発達障害スクリーニング用視線計測装置):目線の動きや注視パターンの変化を数値化し発達特性を可視化する装置

SRS-2とは
SRS-2対人応答性尺度は、2歳半~成人までを対象に自閉スペクトラム症の特徴である対人行動、コミュニケーション、反復/情動行動などを評価する検査です。
保護者や教師など、対象者の日常をよく知る人が回答し、検査者が採点します。

「発達障害スクリーニング用視点計測装置」Gazefinderとは
「発達障害スクリーニング用視点計測装置」Gazefinder(ゲイズファインダー) は視線の動きを計測する事により、ASDのお子様の特性を客観的に評価する装置です。モニター画面に映し出された動画を見るだけなので、小さいお子様でも計測でき、ASDなどの研究において使われています。
研究会ではGazefinderを使って、移植前後の変化を定量的に評価しています。これらを通じて、移植前後の変化をデータとして蓄積し、今後の検討に生かしています。
今後も大学や研究機関との連携を強化し、安全性と有効性の検証を進めていく予定です。
Gazefinderによる視線データの変化
下記の画像は、腸内細菌叢移植(NanoGAS®-FMT)の前後で計測した視線データを示しています。青色の点は、被験者がどこを見ていたかを示すもので、上段が移植前、下段が移植後です。
移植前(上段)では、視線が人物の顔から外れており、目や口など表情の要素を十分に捉えられていません。一方、移植後(下段)では、視線が目や口に集中しており、人の表情をより明確に認識できるようになっています。
ASD(自閉スペクトラム症)の診断基準のひとつには、アイコンタクトの困難さや視線方向の理解の難しさが含まれます。このため、視線パターンの変化は、社会的刺激(他者の目線や表情)への反応が改善した可能性を示す重要な指標といえます。
こうした変化は、「他人と目を合わせると不快感やストレスを覚える」といったASD特有の感覚特性が緩和された可能性を示唆しており、NanoGAS®-FMTによる神経系への間接的な影響が期待されます。

今後の展望と研究連携
NanoGAS®-FMTの一般的な実施手順の流れは次のとおりです。
- 初回相談・診察
医師が現在の症状や生活の様子を確認し、実施の適応可否を診断します。その後、腸内フローラバランス検査を行い、施術が可能かどうかを最終的に判断します。
腸内細菌叢移植の流れはこちら - 菌液調整・事前記録(菌力アップダイアリー)
治療に用いる菌液は、専用施設で品質管理のもと製造されます。
移植前には、生活リズム・食事・排便・行動の変化などを日々記録していただき、移植後の変化を比較できるようにしています。 - 腸内フローラ移植の実施
移植頻度は年齢や体調に合わせて医師が判断し、患者さんのご負担の少ない方法で適切に実施します。 - 移植後のフォローアップ
移植後2週間・3か月・6か月・1年など、複数の時点で経過を確認します。
検査結果や行動変化を医師・保護者が共有し、長期的な診療で治療をサポートします。
NanoGAS®-FMTでは、短期的な効果だけでなく、時間をかけて心身が穏やかに変化していくことを大切にしています。
腸内環境の改善は、食事・睡眠・生活リズムといった日常の積み重ねによっても支えられます。
そのため、治療後も家族全体で取り組めるサポート体制を重視しています。
自閉スペクトラム症(ASD)に対応する医療機関
NanoGAS®– FMTは、腸内フローラ移植臨床研究会に所属する提携医療機関で行われています。たとえば下記医療機関では、自閉スぺクトラム症の進行状況を踏まえた丁寧なカウンセリングを行っています。
いずれの医療機関でも、共通のプロトコルに基づき、専用施設で製造された菌液を使用しています。
診療を希望される場合は、まず医師による診察を受け、症状や既往歴に応じた適応を確認してください。
全国の対応クリニック一覧は、提携医療機関のご案内もご覧ください。
地域や診療科目から検索できるようになっています。
費用の目安や自由診療については、腸内細菌叢移植にかかる費用をご覧ください。
ASD患者のご家族がよく抱える不安とその対応
ASDのお子さんを育てるご家族からは、「診療で何が変わるのか」「子どもが痛がったりしないか」「どんな準備が必要なのか」といった不安の声を多くいただきます。
NanoGAS®-FMTは、こうした不安を少しずつ解消しながら進めることを大切にしています。
移植自体は医師の管理のもとで行われ、痛みや強い刺激を伴う処置ではありません。
また、診療は一度で完結するものではなく、時間をかけて腸内環境の変化を見守るプロセスです。
多くのご家族が、最初の変化よりもむしろ「数か月後に落ち着きが見られた」「表情がやわらいだ」「家族とのやり取りがスムーズになった」と感じています。
また、NanoGAS®-FMTでは、客観的な検査データとご家族の観察記録の両面から変化を把握します。
定期的に行うアンケートや視線計測(Gazefinder)の結果は、医師が丁寧にフィードバックし、今後の治療方針の参考にします。
このように、医学的な根拠と家庭での実感を重ねながら、患者さん本人の「生きやすさ」を育てていくことを目指しています。
もし診療を検討する際にご不安がある場合は、まずは医療機関にお問い合わせください。
自閉スペクトラム症(ASD)に関するよくある質問
Q:腸内フローラ移植は何回行う必要がありますか?
A:体質や症状によって異なります。1回で大きな変化を感じる方もいれば、複数回の移植を通じてゆるやかに変化していく方もいます。医師が状態を見ながら最適な回数を提案します。
Q:薬や食事制限は必要ですか?
A:基本的には医師の判断に従っていただきますが、日常生活の中では「腸にやさしい食習慣」を心がけることでより良い状態を保てます。詳細は腸にやさしい食事等をお薦めする腸内環境コラムも参考になります。
Q:どの年齢でも受けられますか?
A:NanoGAS®-FMTは2歳のお子さんから安全性を十分に考慮した体制で実施するよう努めています。
検査項目や経過観察の方法が年齢により異なるため、詳細は対応医療機関でご相談ください。
自閉スペクトラム症(ASD)関連コラム・資料
ASDと腸内環境の関係は、現在も研究が進められている注目分野です。
下記のコラムでは、脳腸相関・腸内細菌叢・NanoGAS®-FMTのメカニズムなどをより詳しく解説しています。
- 脳腸相関(脳と腸のつながり)を分かりやすく解説
- 自閉スペクトラム症と腸内細菌の最新研究
- 腸内環境と精神安定の関係
今後も臨床データの蓄積とともに、新たな知見を随時公開していきます。
ASDに関する診療を検討される場合は、まず対応医療機関一覧をご覧ください。
動画で自閉スペクトラム症(ASD)を詳しく知る
保護者の方のインタビューや、医師による症例報告やセミナー、「ゆるっと菌たちと座談会」など、Youtubeで公開しています。




